――まず貴女の名前と職業を。
「あ、レオナって言います。えと、教会で神父様のお手伝いをさせて頂いています。」
――ではまず何があったのか教えて頂けますか。
「はい・・・。ちょうど私が教会前を掃除、あ、箒でです、はい、そこの。
んで箒で掃いていたら、いきなりあの二人が出現して。」
――出現?
「はい。突然ぱって。多分ルーラとかキメラの翼とかだと思います。」
――なるほど。それで二人の様子はどうでしたか。
「えと、抱き合ってました。いえ、そういう恋愛染みたのじゃなく。何というか殺伐とした感じです。
二人の表情ですか?始めは何か呆然と、っていうか何か引き攣った笑いというか何というか、
とにかく呼吸は荒くて顔にはびっしりと汗かいてて尋常ではなかったです。」
――それで貴女は介抱しようと近づいた、と。
「はい。知り合いでしたし。
まず初めに声を掛けたんです。え、あ、『リュウくん?』ってです。
でも全然反応なくて。それで次に『コトノ?』ってもう一人にも。
やっぱり反応なくて。全然息も荒くて。
んで、ちょっと怖かったんですけど恐る恐るっていうのも変ですけど
そんな感じでリュウくんの、はい男の子の方の肩に手を置いたんです。そしたら・・・。」
――そしたら?
「突然びくっと反応して、すぐ手を払われました。あ、彼はずっと虚空を見てました。
そしていきなり笑い始めちゃって。」
――笑い・・・?
「はい、狂ったように笑い始めちゃって。そしたらコトノもつられたのか笑い始めちゃって。
私すごく怖くなっちゃったんですけど、友達だし、それにすごく不安になって。
んで名前呼びながら肩を揺さぶってたんです。はい、交互ってのも変ですが二人にです。
でも二人ともずーっと笑いっ放しで。むしろ揺さ振る度に酷くなっていっちゃって。
そのうち周りに人が集まってきちゃって・・・。」
――それで貴女はどう思いましたか。
「騒ぎが大きくなりそうだなぁって。それで、どうしようどうしようっておろおろしちゃって。
その間も二人とも壊れたみたいに笑ってるし。段々ムカついて来ちゃって。」
――それでどうしましたか。
「とりあえず黙らせなきゃって・・・。んで箒が視界に入って。」

****                

「それでぶん殴って昏倒させたと?」
氷嚢を頭に載せながらリュウがレオナを半目で睨む。
「レイ・・・。あんた覚えときなさいよ・・・。」
呻きながらコトノが呟く。
二人からの攻撃にレオナは頬をかいて明後日の方角に多少引き攣った微笑を向ける。
教会の人間が突然無抵抗な人を鈍器で殴打したということで、
周囲に目撃者が多数いたことも手伝い、周囲は騒然となった。
すぐさまレーベ駐在の騎士が呼ばれ、
今ここレーベの教会2階で事情聴取を行っているというわけである。
その駐在の騎士が彼女らの様子に溜息を一つ、深く吐く。
「まぁ大事なかったから良かったようなもんですけど。気をつけてくださいよ。」
そう言い、駐在騎士はその場にいる人物を眺める。
駐在の言葉に顔を真っ赤に染め俯くレオナ。
そのレオナを、額に氷嚢を押さえながら睨むリュウ。
同様に氷嚢を頭に載せ卓に突っ伏すコトノ。
その様子を温和な顔で眺める神父。
「とりあえず罪に問うことはありません。周辺への対応は自分で対応してください。」
羊皮紙で出来た調書を丸めながら駐在騎士が言う。
聴取の終わりとの意味だ。
「いやー。事後処理色々面倒ですねえ。」
神父が笑いながら言った。
「最近は何も問題なかったんですけどね。」
言葉の棘の方向はレオナに向けられている。
レオナは冷や汗をかいて戸惑っている。
「と、ところで、なんでいきなり現れたの?」
そしてレオナが話を転回させようと話題をリュウに振る。
そのレオナの一言に、恐怖が一瞬フィードバックしたのか、ぎしりと固まるリュウとコトノ。
「リュウくん?」
二人の顔に大量の汗が浮かぶのをレオナは訝しげに見る。
「あ、あぁ。」
レオナの問いかけにリュウは気を取り直して氷嚢を持ち直す。
コトノは硬直している。
「ちょっとあほな事をしてさ。逃げてきた。」
「・・・なにやったの?」
「聞くな。」
リュウが目を逸らす。
「てかさー・・・。」
コトノが卓から顔だけを上げてリュウを見る。
「良く回避できたわよねー・・・。」
ヴァイのイオナズンが発動する寸前、いや発動はしていたかもしれない先ほどの場面を思い返す。
あの時既にヴァイの手から光弾は放たれていたのだ。
「いや、瞬間走馬灯が走ってさ。」
コトノの言葉で暫く思い出していたのか呆けていたリュウが、力なく天井を見ながら口を開く。
「あれ、本当に一瞬で色々思い出すんだなー。
んで友達の顔、ってかお前等しか友達いないんだけどさ、が浮かんでさ。
あ、そういえばレオナの所配達行かなきゃなって思い出して。
そしたらさっき貰ったキメラの翼を思い出して、無我夢中で。」
そして爆発呪文の効果が発動されると同時に、キメラの翼が発動して紙一重で回避出来た
と、いうことらしい。
「あんたの友達の少なさと武器屋根性に助けられたのか・・・。」
コトノは呟くと再び卓に突っ伏す。
「あたしもう絶対仕事中は遊ばない・・・。」
「いや。当たり前だ。」
「えと、よくわからないけど。
とりあえず仕事中、しかも忙しい時だってのに二人してふざけてたら
ヴァイさんが激怒して何か二人に折檻だって攻撃魔法仕掛けたところを
命辛々逃げ出してきたってところかな?」
それまで黙って状況把握に努めていたレオナがここに至るまでの推測を二人に述べる。
二人はそろって重々しく頷く。
「あー!もうどうしよー。」
レオナの推測、というより事実を聞かされて突如コトノが頭を抱える。
「どうしたの?」
「いや、生命の危機だったとはいえ、忙しいってのに会議やら仕事やら放りだしてここにいるということを思い出し、そのため後でヴァイさんからどんな罰を与えられるんだろうと悩んでいるようだ。」
「へー。」
「他人事だと思って気楽なもんね・・・。あんたら。」
「だって他人事だし。」
コトノが放った氷嚢がリュウの顔に直撃する。
中にはまだ氷の塊があるため結構なダメージのようだ。
「ね?リュウくん。」
暫く思案気に顔を伏せて考えていたレオナが、顔面を押さえながら蹲るリュウに尋ねる。
「ん?」
「さっき『貰ったキメラの翼』って言ってたけど、おじさんに貰ったの?」
どうやらキメラの翼の出所に悩んでいたらしい。
ゴロウの倹約っぷりが気になったようだ。
「まさか。親方がくれるわけないじゃん。ヴァイさんがくれたんだ。」
「ふーん・・・、なんで?」
「なんでって、レーベの村で・・・。」
「あのー・・・。」
リュウの言葉を遮り駐在騎士が少し遠慮気味に発言する。
「あ、はい。」
「とりあえず、問題無いみたいなので私はこれで帰ろうかと。」
そう言い席を立とうとする。
その様子を横目で見ながらコトノが考え込んでいる。

(そうよね、キメラの翼ってヴァイさんに言われて渡したのよね。なんでレーベに・・・。)
イオナズンの恐怖やらで記憶があやふやだ。
「すいませんでした。お忙しいところ。」
レオナが駐在に謝罪する。
駐在は笑顔で応じる。
「いえいえ、最近一切騒ぎが無くて退屈していたところですよ。」
豪快に笑う。
(なんだろう、何かあたしを助けるアイデアが浮かびそうな・・・。)
コトノは駐在の言葉に完全に思考に沈む。
(騒ぎ・・・、最近・・・、レーベの異変・・・。)
頭の中で断片が繋がっていく。
「それよっ!?」



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