「それよっ!?」
コトノが勢い良く立ち上がる。
突然の大声に一同呆然とする。
「コトノ?」
「リュウ、覚えてない?」
コトノは興奮しながらリュウに詰め寄る。
「なにが?」
「アリアハンでヴァイ様に言われたことよっ!」
「えーと・・・。」
リュウは顎に指をあてて考える。
その途端に顔色が悪くなる。
「違うっ!」
コトノがリュウの頭を叩く。
「恐怖体験はこの際どっかに置いておきなさいっ!」
「ぬう・・・。」
改めて思い出す。
「・・・レーベ東・・・?」
「そうよ、レーベの異変よ。あんたはそれを聞くために此処に来たっ!違う!?」
コトノの迫力にたじろぐ。
「い、いや本来は配達・・・。」
「あ、そういえば頼んでたの持って来てくれた?」
「ああ、はいコレ。」
リュウはレオナに皮袋を手渡す。
「ありがとー。」
レオナは感謝の言葉と微笑をリュウに向ける。
つられてリュウも笑顔になる。
「いや、そうじゃなくてっ!」
一瞬のうちに和み始めるリュウとレオナに怒鳴り声を上げる。
「とりあえず考えてみたのよっ!」
「何を?」
「言い訳っ!」
「あんまり声を張り上げると喉痛くするよ?」
「うるさいっ。」
「して、どんな言い訳だ?」
「いい!?心して聞いて覚えなさい!」
コトノは息を吸う。
「あんたはレーベの異変についてヴァイ様に依頼されて調べに行かされた。
でもあんたは了承したものの、一人で行くのが、そこはかとなく不安だった。
それであたしに同行を求めた。
でもあたしは忙しいから断った。
それでもあんたは食い下がってあたしに絡みついた。」
「絡みついてたの?」
レオナがリュウに尋ねる。
「事故みたいなもんだ。あと俺からって訳でもねぇ。」
リュウが眉を顰めてレオナに答える。
「黙ってなさい!
んで、口論になりいつものように話題がそれたっ。」
「いつものようで話通じるんだね。」
「んで!その場を見られて以下ヴァイさんの見た状況へ!
そして、危険回避を口実にリュウは可憐なコトちゃんをレーベに連れ去った。」
「いや、可憐て。」
リュウが半目で呟く横でレオナは笑いを堪えている。
「そしてレーベまで来た以上聡明で仕事熱心で友達思いなあたしは
仕方ないからレーベの異変を調べてきました!
どう?これで行くわよ!」
「いや、無茶あるだろ。」
「リュウくんが悪者になるんだね。」
「いいの!口裏合わせなさいっ!」
リュウに断言してコトノはぐるりと首を駐在騎士に向ける。
「さて。」
「ひっ。」
「ちょうど良い所におられました。私はアリアハン宮廷魔術師のコトノと申します。ちょうど詰め所の方から何か異変があったと報告されたので視察に来たわけですが、ここに駐在する騎士のあなたなら詳しい事情を知っていられると思うのですが如何でしょうか?」
「は、はぁ・・・。」
「そうですか、では詳しく聞かせて頂けませんか?」
血走った目で駐在の騎士に詰め寄る。
「うわー・・・。駐在さん脅えてるね・・・。」
「必死だね。」
「外野うるさいっ!」
コトノに一喝され首を竦める。
「と言うわけで、どうなの?駐在さん。」
壁に追い詰めたコトノが駐在騎士に尋ねる。
何か箍が外れてしまったのか敬語すら使っていない。
「え、い、いやね。異変と言えば異変なんですがね。」
「ふんふん。」
「何というか言い辛いんですが。」
「うんうん。早く言いなさいよ。」
駐在の首にコトノからの軽く、だがずっしりとした、実際の触感を伴った圧力が掛かる。
「ひっ・・・。」
「うわ、コトちゃん、こわー・・・。」
「ヴァイさんの弟子だよな・・・。」
リュウたちは椅子に座り眺めている。
「それで異変って?」
「あのですね。」
「うん。」
「な・・・。」
「な?」
「な、何も起きないんですよ。」
「・・・。」
その場にいた全員が沈黙する。
「・・・えーと?」
駐在騎士が脅えながら周囲を見渡す。
アリアハンから来た二人は疑問とも怒りとも何とも言えない表情をしている。
「そーいえば、ここの所凄い平和でしたね。」
「争いも怪我人も無く静かな日々でしたね。」
思い返すかのようにレオナが神父に言い、神父は神に平和を感謝するための祈りを唱えた。
「・・・駐在さん?」
固まっていたコトノが再び口を開く。
「だ、だっておかしいんですよ!例年なら必ずといって良いほど、大なり小なり魔物の被害が村人から出ているんですよ?それが急にぱったりと静かになるなんて気持ち悪いじゃないですかっ!」
「それで、わざわざ王城まで陳情を?」
「だって・・・!」
「駐在さーん?」
「は、はい。」
「もうすぐ王都から勇者旅立つって知ってますー?」
「は、はい。」
「城ではその準備でてんてこ舞いだっての聞いたことありません?」
「一応騎士なので理解はして・・・。」
「おいこら駐在・・・ッ!」
駐在騎士の言葉を遮りコトノが怒気を発する。
「こっちは命がかかっているんだ・・・ッ。」
静かに駐在の首にコトノの両手が掛かる。
駐在は体が動かない。
リュウとレオナも動けない。
神父は茶を啜っている。
「それなのを魔物が出ないから調べてくれだと・・・?」
ゆっくりとコトノの指が内側に曲がっていく。
「そんなもんはな・・・。」
圧迫されていく駐在の首を掴んだまま力の方向を上に向ける。
リュウたちはごくりと喉を鳴らした。
駐在は脅えている。
「勇者が旅立ってから陳情せいやっ!」
「わー!」
「コトちゃん、ストップ!止まって!」
コトノが駐在を宙に持ち上げた時点で、我に返ったリュウとレオナに取り押さえられた。