「褒美じゃ。」
リュウがレーベの村で労働に勤しんで早5日。
本日最後の労働場所でドアの修理をし終わった時に、
家主の老人が褒美にとリュウに不思議な玉を与えた。
「・・・なんすか?これ。」
「魔法の玉と名付けた。」
(名付けるって事は手作りか。)
渡された玉を手の中で転がす。
「閉ざされた封印を解く効果があるんじゃ。」
「・・・じゃあ、なんで閉じ込められていたんですか?」
リュウは半目で老人を見る。
当初の予定にはこの老人宅での仕事は無かった。
仕事が終わり、教会に戻ったとき、リュウの所に幼い子供が駆けてきた。
「どうしたの?お嬢ちゃん。」
リュウが尋ねると少女は慌てた口調でリュウに助けを求めた。
おじいちゃんが部屋に閉じ込められちゃった、と。
どうやら話によると、
何かの研究に没頭している祖父のところに、少女は食事の支度が出来たと呼びに言った。
その祖父は研究中には誰も入れないよう鍵をかけるという習慣を持っていた。
今日も鍵をかけていたので少女は静かにノックし
祖父の邪魔にならない程度に小さく呼びかけたそうだ。
その孫の呼びかけに気付き、部屋の鍵を開けようとした瞬間、
祖父の不注意で鍵が折れた。
そうして自らの手で閉じ込められた祖父を助けるために、
ちょうど村に来ていた何でも屋を思い出し、こうして教会まで少女は来たのだ。
「そういう事でドアを開けて、鍵も修理したんですけどね。」
リュウが玉を見ながら言う。
「閉ざされたドアをコレで解けば早かったじゃないですか。」
老人は笑っている。
(あー・・・、ったく。)
まったく聞いていない老人の様子に心の中で悪態をつき、懐に玉を入れる。
「ふぉふぉふぉ。いつか使うじゃろうて。
使う時は十分注意するんじゃぞ。」
「・・・待て。ふと思ったんだけど。」
素敵な笑顔で去ろうとする老人の肩を掴む。
「何かね?」
「使う時には注意が必要なんですね?」
「そうじゃのぉ。」
「て事は危険な事があったりなかったり?」
「ふぉふぉふぉ。」
「あんたさっき密室状態だったから使わなかったのか?」
「ふぉーふぉーふぉー。」
「まさかこれって爆発物かなんかか、おい!?」
「ふおーふおーふおー。」
「おい、爺さん!!?おいってば!?」
何も聞こえないと言わんばかりに笑い声が大きくなる老人。
ひたすら抗議の声を出すがリュウの言葉は老人を止める事は出来なかった。
老人が孫を連れて歩き去った後リュウは立ち尽くしていた。
「どうすれって言うんだよー・・・。」
懐の中の危険物。
使い道の無さに思わず溜息を吐いた。

****

「まあ、せっかく貰ったんだし取っておけば?」
ベッドに腰掛けながらヒカルが言った。
ぶらぶらさせているヒカルの足を眺めながら、
リュウは機嫌の悪そうな顔で剣を磨く。
「でも怪しい。」
「でも、雑用のお礼って滅多にないんでしょ?」
リュウがさらに不機嫌な顔になる。
「・・・別にそういうのが欲しい訳じゃないし。」
「はいはい。すっごい珍しくご褒美貰ったんだから貰っておきなさいな。」
(どいつもこいつも・・・。)
剣を鞘に収めながら溜息を吐く。
「おまたせー。」
ノックなしにレオナが部屋に入ってくる。
「おつかれー。」
ヒカルが明るく迎える。
「いやー、片付けは早く終わったけど明日の仕込みに梃子摺っちゃって。」
「明日の朝ごはん、手の込んだの作るの?」
「起きれたらねー・・・。多分お昼ごはんの可能性が高いかも。」
ベッドに持ってきた枕を置いてヒカルの横に座り腕を組む。
「起きれもしないなら準備しなくてもいいんじゃ?」
リュウが半目でレオナを見やる。
「でも、その時はリュウくんが作るし。」
「決定済みかい。」
「それにほら、朝食後の午睡って堪らないし。」
「いっつも寝てるのかっ。」
リュウが声を荒げる横でヒカルが感心したように目を丸くする。
「はえー。良く太らないね・・・。」
「うん。わかったからお腹触らないで。」
レオナは自分の脇腹を摘むヒカルの手を、固まった笑顔のまま掴む。
「ッ!?リュウ!」
「何だよ!?」
愕然とした表情のヒカルがリュウを呼ぶ。
「細いよ!?」
「知らんわ。」
「あんなに飲み食いしてるのに・・・。
あんなに食っちゃ寝してるのに・・・。」
不公平だ、そう呟く。
「あの、ヒカルさん・・・?」
レオナは渾身の力でヒカルの手を腹から離そうとするが
好奇心と怨みに駆られるヒカルにはビクともしない。
「うー・・・。」
いい加減くすぐったい。
何とか解放されようとリュウに助けを求めようと視線を向ける。
「・・・ぷい。」
目を逸らされる。
「ちょっとー・・・、ひゃんっ。」
恨み言を言おうと口を開いたとき、それは叫び声に変わる。
「ヒカルっ!?」
「うわ、ちっさ。」
「うるさいよっ!?」
ヒカルの手は腹から上に移動し、今はレオナの胸を揉んでいる。
「って揉むほどないよね?」
「俺に聞いてどうする。」
ヒカルは答え辛い質問をリュウに投げかけるが、当然リュウは答えられない。
「細いのは羨ましいけど・・・、全体的に細いってのはちょっと・・・。」
「なら、とっとと手を放してっ!」
ヒカルの鬼のような評価にレオナは顔を赤く染めながら絶叫する。
「うん、女の子は胸の大きさじゃないよ。ね。リュウ?」
「だから俺に聞いてどうする。」
「むしろ感度だよね?」
「知らんってば。」
「じゃあ、何よ?」
「・・・形とか?」
「ほお、リュウさん形派ですか。ちなみにあたしは柔らかさ派。」
「いや、本気で知らないし。ねえ?」
「私に意見求めないでっ!そしてほっといて!」
ヒカルたちのフォローに対してレオナがますます傷つく。
「だいいち!ヒカルは私に意見できるほどスタイル良い訳じゃないでしょ!?」
レオナが激昂する。
「うーん、身長比でいったらレイちゃんよりはいいんじゃないかなぁ。」
「うそ!?」
「ウエストは流石に負けるけどね。ほれ。」
「・・・。・・・・・・っ!?」
ヒカルが自らの胸にレオナの手を触れさせたとき、レオナは打ち拉がれた。
「多分、比率の良さ云々以前にレイちゃんより大き」
「それ以上言わないでっ!?」
レオナは涙を流して耳を塞ぐ。
(そ、そんなに重要なことなのか・・・。)
リュウがその様子を何とも言えぬ表情で眺めていた。
(そういえば、同い年くらいの連中も胸がどうとか騒いでたが。)
近所の男連中がしていた会話を思い出す。
(あれは男側の意見では・・・?)
理解が出来ず首を捻る。
「・・・男の俺にはわからぬ世界よのぉ。」
首を振りながら呟くリュウに気付いたヒカルが好奇の視線を向ける。
「男の子にも分かる例えをしてあげようか?」
「ん?どんなの?」
「んーっとね、コトちゃんに聞いたんだけど・・・。」
リュウに耳打ちする。
「・・・!?そうなのか・・・?」
「それこそ良くわからないけど。
お父さんに聞いたら、沈痛な表情だったけど、間違いないって。」
「聞くなよ。そうなのか。」
頬を赤くして愕然とするリュウは視線をレオナに向ける。
「・・・なに?」
リュウの目には憐憫の意思が込められていた。
「いや、うん。気持ちが少し理解出来た。
頑張りようがないけどお互い挫けず生きてこうな。」
「うん、すっごいむかつくよ。」
その優しい微笑みに思わずレオナのこめかみに血管が浮き出る。
「あー、もういいよ!寝る、寝るの!」
レオナが怒り喚きながらベッドに潜り込む。
リュウはその行動に焦りだす。
「あー・・・、あのさ。」
「何!?」
レオナが鬼の形相で睨む。
「いや、不貞寝はええねん。」
「じゃあ何?」
「えーと、この部屋で寝るの?」
「そうだよ?枕も持ってきたんだし。」
そう言い、レオナはMY枕を掲げる。
「じゃあ、俺は何処で寝ろと。」
ここは神父の寝室であり、リュウの滞在している間リュウに与えられた部屋である。
「だからここで寝れば?」
当然といった顔でレオナは自分の横たわるベッドを指差す。
「・・・。」
「当然あたしも一緒。」
ヒカルがベッドに潜り込む。
レオナとヒカルの間にリュウ一人分の空間が空いている。
「・・・違う部屋に。」
「昨夜みたいにいつの間にか潜り込まれていると思うけど。」
リュウが回れ右をし部屋を出て行こうとすると、背中に容赦ない一言がぶつけられる。
「今朝、腕が痺れたり肩凝ったりで大変だったからさ。」
「最初から楽な姿勢に腕配置した方が楽ってことだね。」
「何なら回復魔法かければ良いことだしね。」
「ほら、三人だと狭いし。」
「しかし、神父さんのベッド馬鹿でかいねー。」
「あの人、体無駄にでかいからこれくらいでちょうど良いらしいよ。」
逃げ口上を挙げれども次々と潰されていくリュウ。
「えーっと・・・。」
「他、反論は?」
そしてネタが尽きた。
「はい。あきらめた?」
「・・・はい。」
リュウがうな垂れてベッドへ向かう。
「じゃあ、おやすみー。」
「みー。」
「・・・おやすみ。」
その夜、リュウは大蛇に全身を締められる夢を見たそうな。


 



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