そこには仏の様な笑顔を浮かべた神父の顔があった。
「ただいま。」
「お、お、お、お帰りなさい。」
神父は、カハーと息を吐く。
(うわ、こわっ!)
リュウは脅えている。
「って、酒くさっ!」
怯えを除去するほどの夥しいアルコール臭が漂う。
「ああ、さっきまで飲んでいましたから。」
「さっきまで・・・。」
「ええ。さっきまで。ようやくゴロウが潰れたので帰ってきました。」
レオナとヒカルが顔を寄せて小声で喚きだした。
「お父さんが酔いつぶれるなんてありえないっ!」
「さっきまで飲んでたって言ってたけど、まさか!」
二人は顔を青褪める。
その二人の会話を耳に捕らえながら、三人を代表してリュウが神父に質問をする。
「えーっと、はい、質問があります。」
一応挙手して質問する。
「はい、どうぞ。」
「今までずーっと飲んでいたんですか?」
「ええ、そうですよ?」
「今までって、ヒカルに金渡してからずーっとですか?」
「ええ、そうですよ。」
リュウが突如神父の腕を振り払い、レオナ達の所に駆け寄る。
「おい、聞いたか!?」
「え、ええ!何日経ったっけ?」
「え、4日?」
「24×4!」
「えーっと・・・、96?」
96時間耐久飲酒大会。
(化け物だ・・・。)
「何か問題ありますか?」
神父がいつの間にか背後に近付いていた。
「うわー!うわー!うわー!うわー!」
三人は互いに抱きつきながら壁際まで避難する。
「まあ、とりあえず帰ってきたんで君ら二人帰っていいですよ?」
神父が笑顔で告げる。
その言葉にリュウとヒカルは満面の笑顔を浮かべ、レオナは青褪める。
「よし、んじゃ早速。お世話になりましたっ!
・・・ん?」
ヒカルを小脇に抱え立ち上がるリュウの腕をレオナがしっかりと掴む。
「ま、まって。おいてかな・・・。」
流石に4日貫徹で飲み続けられる超人類とは一緒にいたくないのか、
レオナが必死の懇願をリュウにした。
「・・・。」
だがリュウも一刻も早く逃げ出したかった。
ついでに言うと、武器屋の状態が死ぬほど気になって仕方が無い。
少なくとも塀は破壊されている。
他にどのような被害が出ているのか、業務に支障を来たすレベルなのか。
ヒカルも、早く帰ろうと、目で訴えかける。
心の中の天秤にレオナと業務を掛けてみる。
「レオナ・・・。」
「うん。」
一縷の望みを賭けてレオナが笑顔でリュウを見つめる。
その笑顔にリュウの中の天秤が揺らぐ。
だが。
「・・・すまん!」
辛くも業務と上乗せされた恐怖心が乗せられた秤の方が重かったようだ。
脱兎の如く教会から走り逃げる。
「薄情者―!」
レオナが泣きながら叫ぶ声が耳に響く。
(くっ!振り返るな俺!)
「ヒカル!」
「うん!」
ヒカルは前もって買っておいたキメラの翼を懐から取り出す。
「ちょっと待った。」
いつの間にか追い着いた神父がリュウの足を払う。
「うおおっ!?」
ヒカルを庇いながら受身を取る。
リュウの顔には驚愕と脅えが見受けられる。
「忘れていました。」
「な、何をですか?」
「餞別です。」
「いた。」
そう言い、一つの鍵をリュウの顔にぶつけた。
「なんです?これ。」
「ナジミの塔の守衛がよろしくと言ってました。」
「はあ・・・。」
よくヴァイに頼まれて、ナジミの塔にお使いに行っていたので、守衛とは確かに顔見知りだ。
(しかし、この鍵と何が関係あるんだろう・・・?)
鍵をぼんやりと見つめる。
「いつか使うかもしれません、持っていきなさい。」
「はあ。」
(また、『いつか使う』か。)
先日、閉じ込められていた老人からもそんな言葉と共に危険物を渡された。
(これも危険な代物かな・・・。)
訝しげに鍵を見ながら眉を顰める。
「無くすんじゃありませんよ?」
無駄に強力な力で頭を撫でられる。
「では2週間後にまた会いましょう。」
そう謎の言葉を残し、神父は教会に戻っていった。
教会の窓にはレオナがいて、片肘をつき苦笑しながら手を振っている。
(2週間か・・・。)
ぼんやり考えながらリュウはレオナに手を振り返す。
「ヒカル。」
「あい。」
ヒカルがキメラの翼を放り投げる。
(まあ、いい思い出になったな。)
キメラの翼が発動する。
リュウが心の中でレーベの村に感謝と別れを告げると同時に、
リュウ達の姿は消え去った。