一筋の光が奔った。
赤い光が、真っ直ぐに。
魔物の山を目掛けて、
リュウの上を駆け抜けて。
「美少女弐号!参っ上!!」
そう宣言して暫く行って、
魔物の群れを血煙に散らして、
そして、
「うわっきゃあああ!?」
すっ転んで。
(・・・ヒ・・・カルか?)
深い傷と激しい出血のため、朦朧とした意識の中、
リュウが悲鳴に反応する。
「美少女参号見参!」
何条もの光が再びリュウの頭上を走る。
ヒカルの斬撃から逃れた魔物に風穴が空き、
その身に、言葉通り風を通し、血液を撒き散らして魔物が大地に沈む。
「ヒカルー、何やってんのよー。」
「ごめんー・・・。」
続いて起こった爆音と共に、
呆れたようなコトノの声と
情けないヒカルの声がリュウの耳に届く。
そして、それに紛れる様に小さな声が耳に届く。
「えーっと・・・。」
「レイ?早く。」
「えー。言わなきゃダメ?」
「だーめ。」
「・・・何の為に?」
「はい、言い訳は良いから。」
「うー。
えと、・・・ぃちごーすいさん・・・。」
「きこえなーい。」
レオナが顔を赤くしながら意を決して大きく息を吸う。
「び、美少女壱号、推参っ!」
照れながら、だがその手にある棘の鞭で
再び取り囲み、当に飛び掛ろうとしていた周囲の魔物を掃いながら。
「自分で美少女とか、言うなよ・・・。」
リュウが残り少ない命を燃やしながら呟く。
「うるさいわよ、半死人。」
「何しに来た?」
笑顔でリュウに言ったコトノを遮るようにリュウが言う。
その言葉にコトノが眉を吊り上げながらリュウを踏む。
「・・・どの口でそんな事ほざけるのかしら。」
コトノの顔が怒りに染まっている。
「っ。だって。」
「だってじゃない!」
「ぐあっ!」
コトノが足を捻る。
ちょうどその地点に傷があったためリュウは堪らず苦悶の声を上げた。
「数百万の魔物がいるってわかっているのに一人で行く。
何の対策も無いまま、自分勝手に行く。」
コトノが話している最中に大ガラスが横から襲い掛かる。
コトノは見ることなく火球を叩きつける。
「その挙句、あっさりやられて死に掛け?
はん!いい様ね。」
コトノの声が徐々に大きくなっていく。
「仲間を決めるのだってそうよ。
碌に考えもせず、適当に強そうなのをいつの間にか選んでた。」
そして、その仲間は簡単にリュウを見捨てるような人間だった。
「それに関してもあんたは特に思ってなかった。
どうせあいつら来るとは思ってなかったでしょ?」
リュウは血まみれの顔を頷かせた。
「何!?勇者ってのは何でもかんでも一人で出来るって言うんですか?
そんなにお強いんですか!」
コトノの怒りが加熱して行く。
「あたし達は、お飾りですか!
あんたにとって、あたしは仲間ですらありませんか!
なんで!相談の一つもあたしにしないのよ!?」
ルイーダの冒険者について、もっと調べる事も出来たかもしれない。
ひょっとしたら、凄く良い仲間を見つけられたかもしれない。
魔物についても、少なくとも今よりも良い状況に出来たはずだ。
「・・・ごめん。」
コトノの目から溢れ始めた涙にリュウは謝罪することしか出来なかった。
「コトちゃん。」
リュウの胸倉を掴むコトノの肩をヒカルが押さえる。
「おちつこ?言ってる事けっこう支離滅裂ってきたし。」
「うん・・・。タッチ。」
コトノはヒカルの言葉に従い、
リュウを解放し涙を拭った。
「リュウ。」
コトノに変わりヒカルがリュウの前にしゃがむ。
そして頬を思い切り叩く。
「あたしも怒ってるんだからね。」
赤くなっているリュウの頬を抓りながらヒカルは眉を吊り上げる。
「あんな屑どもを、一時とはいえ仲間にしたこと。
出発する時あたしに会いに来なかったこと。
今大怪我こさえていること。
あと、その他いっぱい。」
リュウの頬が良く伸びている。
「いふぁいえす、ひかるふぁん。」
「なら言う事があるでしょ。」
ヒカルがリュウの頬から手を離す。
「・・・ごめんなさい。」
「うんっ。許す。」
リュウに一度抱きついて一言言うと、レオナと手を合わせる。
「交代。」
「あいさ。」
そしてレオナがリュウに笑いかける。
「えーっと。」
リュウがレオナの微笑みに戸惑う。
「今までのパターンから、私が今持っている感情はなんでしょうか?」
「怒られていらっしゃられますか?」
「ピンポーン。」
レオナの平手が、小気味の良い音と共にリュウの頬を更に赤くする。
「・・・言いたいことは山ほどあるけど、二人が言ってくれたからね。
とりあえず、一つだけ。」
「・・・うん。」
「約束、破った。」
レオナはリュウの腕に走る大きな傷に触れながら言う。
「・・・努力はしたんだけどね。」
レオナとの約束、怪我をしないこと。
「かすり傷くらいなら許したけど、こんな大怪我は認めない。」
「・・・ごめん。」
「謝っても許さないよ?」
レオナが含み笑いを浮かべる。
「どうしたら?」
「そうだね。」
そしてレオナはコトノとヒカルと顔を合わせ、同時に頷く。

「私たちを連れてって。
そしたら許してあげる。」
三人が同時に言い放ったその言葉にリュウは呆然とする。
「えーっと。」
「ちなみに悩むのは勝手だけど。
私たちが拒否を認めるとは思ってないよね?」
「あたし等がリュウを許さないことを許さないってのもね。」
「となったらリュウの選択肢は存在しないよね。」
「ちょっと待て。」
畳み掛ける三人にふらつく頭を押さえながらリュウが待ったをかける。
「危険な旅なんだぞ?」
「そーだね。」
「死ぬかもしれないんだぞ?」
「あんたも一緒でしょ。」
「あはは、コトちゃん答えになってないよ。」
「・・・女の身だと危険な所だってあるんだぞ?」
「自衛もするけど、リュウくんが守ってくれるから。」
「あー・・・、宿だって同室の時があるぞ?」
「私は別に。」
「あたしもー。」
「あたしは・・・、見料取る。」
「・・・それに野宿だってざらだ。」
「えー・・・、それは嫌かも。」
「こらこら。」
「湯浴みも滅多に出来ないかもしれない。」
「えー!やだー!」
「まてい!何しに旅出るんだよっ!」
旅に連れて行かないように説得をしていたリュウだったが、
思わず突っ込んでしまう。
「じゃあ、我慢するならオッケーってことみたいだね。」
「やー、うん。つらいけど我慢しよー。」
「しょうがないわねー。」
三人が勝手に話をまとめにかかる。
「おいっ・・・。」
「ねえリュウくん。」
レオナがリュウの口に手を当てて黙らせる。
「私たちと一緒にいたくないの?」
「はい?」
「私たちは嫌。むやみに心配するなら危険な目に遭う方がよっぽどまし。」
「・・・。」
「リュウくんはどうなんですか?」
リュウは想像してみる。
今までは、旅先で苦しいことがあったとき、
彼女らを思い出して支えにしようと思っていた。
「旅の間に私やコトノやヒカルに悪い虫がつくかもしれないし。」
(そんな心配してないし。)
「怪我したり、病気に罹ったり。」
(君たちの場合病気の方から逃げ出すかと。)
「大変なことに巻き込まれたり、リュウはそんなことを考えたりしないの?」
(大変な事は起こす方だろ、お前ら。)
そう、三人の言い分について考えていた時、一つ思考に引っかかるものがあった。
(俺がいなくなったら、どうなる・・・?)
彼女らがする傍若無人な行動に対して、
彼女らのストレスの捌け口が無くなることに対して、
多大な不安が急に生じたのだ。
(無茶苦茶心配だなぁ・・・。)
リュウは頬に冷たい汗を一筋流す。
そして、思考プロセスを納得する方向に入れる。
(そうだ。俺がいないとこいつらは何をするかわからないんだ。)
思わず顔が綻びそうになる。
(そして俺はそれを気にして満足に旅が出来ない。)
「あたし達は危険なことくらいじゃ怯まないからね?」
コトノが付け加えた言葉がリュウの考えを後押しする。
(こいつらと旅に出る事の方が安全なんだよな。
だから。
だったら。)
「決まった?」
ヒカルが笑顔で尋ねる。
リュウも笑いながらそれに答える。
「もう一度だけ聞くけど・・・。」
「ノープロブレム!!」
リュウの言葉が終わる前に、三人の声が唱和する。
「ならば。」
リュウが笑う。

「どうぞよろしく、我が仲間。」
「大いに任せて、我が勇者。」
そろってスカートの裾を摘むように傅く三人にリュウは苦笑を浮かべる他無かった。


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