「さてっと、第二陣のようだね。」
レオナに解毒と回復を施されたリュウが言いながら立ち上がる。
そして肩を回して、伸びをして体の調子を確認する。
全快している。
毒も消えている。
「どう?」
「御覧の通り。」
レオナの質問に力瘤を見せて答える。
「ほっそいね。」
「違うわっ!」
「細腕だって。」
「細腕だよ。」
コトノとヒカルがレオナの答えを肯定しリュウに追撃をかける。
「うう・・・。頑張って鍛えているもん。」
「ええっ!?」
大声で三人が驚く。
(何?この反応・・・。)
「だ・・・。」
レオナがわなわなと唇を震わせる。
コトノ達も同じ反応である。
「ダメだよ!鍛えちゃ。」
レオナが目を吊り上げて、指を突きつける。
「なんで?」
「だってムキムキのリュウくんなんてリュウくんじゃないもんっ!」
「えー・・・。」
「リュウくんはあくまでスカートの似合う男の子ってイメージじゃないとっ。」
(そんな馬鹿な。)
「まあ、そんなに気落ちしないで。」
脱力するリュウの肩をヒカルが優しく叩く。
「うん。」
珍しく掛けられた優しい言葉に思わず目頭を熱くしかける。
「でも。
女装させれなくなるから、
最低限は認めるけど絶対に鍛えちゃダメだからね!」
無邪気な笑顔で言われる。
「さようですか、そうですか。」
リュウはそっと瞳の端に浮かんだ水滴を拭う。
「さて、馬鹿話はここまでにして。」
「そうだね。」
真剣な顔に戻る3人に心底疲れた顔をするリュウ。
それを無視しヒカル達は魔物について対策を練り始めた。
「けっこう時間空いたね。」
先ほどリュウに群がっていた魔物を片っ端から蹴散らしてから暫くの間、
リュウに説教をし、回復に至るまで、魔物に動きは見られなかった。
「待っててくれたとか?」
「まさか。」
リュウが剣を抜く。
「きっと、アレよ。想定外のあたし達の出現に布陣を敷き直してたんでしょ。」
コトノが腕を組みながら言う。
「魔物のくせに布陣?」
ヒカルがコトノに聞き返す。
魔物がそのような高い知能を持っているとは考えにくい。
「向こうには指揮者がいる・・・?」
レオナが口に手を当てて言う。
「多分ね。」
リュウがヒカルの頭に手をぽんと置きながら言う。
「こんきょはー?」
「しゃきしゃき喋れ。
妙に取れている統制とか、魔物を出すタイミング。
罠とかが偶然にしては出来すぎなくらいでな。
馬鹿みたいに厭らしい奴が後ろにいる。
じゃなければ瀕死になるもんか。」
「ただ単にリュウが間抜けなだけどか。」
「うるさいよ。」
ヒカルの鼻を叩く。
「とにかく。アリアハンに残っている魔物にしてはかなり手強いんで、
各自注意してくださーい。」
「はーい。」
あまりにやる気のない言い方に4人が4人とも吹き出す。
「なによ、もうちょっと気合入れようよ。」
「そうだよ、これから死闘だってんだから。」
魔物の軍勢が動き出したのか、土煙が上がり始める。
「うーん、てか無理?」
リュウが笑う。
「そうだねー。そもそも死闘になりやしないよねー。
とにかく、どれだけ敵が多くても。」
レオナが鞭を握り締める。
「あと、どんなに敵が強くても?」
コトノが目を瞑りながら、魔法力を集中し始める。
「あはは、あたし達4人が揃ったら?」
ヒカルとリュウが剣を構える。
魔物がこちらに向かって駆けてくる。
もうすぐそこまで近寄ってきている。
「おう、敵う奴がいるとは思えない。」
「誇大もーそー!」
「うるせ。」
軽口を叩きながら、リュウ達は魔物を迎え撃った。

***

「ヴァイ?」
神父が驚く。
「様子はどうです?」
背後に騎士団を連れてヴァイが現れた。
「面白いくらいに暇だな。」
「暇?」
「さっきレオナたちを加勢にやったら、魔物が攻めてこなくなったんだわ。」
「それは・・・、頑張ってるんですね。」
「みたいだな。」
門の外で戦っているであろう4人を思い浮かべる。
「んで、お前らも加勢に行くのか?」
整列している騎士団を眺めながらヴァイに尋ねる。
「いえ、彼らには村を守らせます。」
「なに?」
ヴァイの言葉を思わず尋ね返す。
「たかだかこの大陸に存在する魔物程度で殺られる彼らじゃないですよ。」
(無茶苦茶な信頼だな。)
「そんなことより、ちょっと手を貸してください。」
「あん?」
「ナジミの塔から魔物の布陣を見させていたんです。
それでどうにも統制が取れているってんで、調べさせたんですよ。」
「何を?」
「指示をしてる奴の有無、あと場所です。」
神父は口を開ける。
「布陣見てれば分かりますよ?それくらいは。」
「んで、俺にどうしろと?」
「決まってます。
今、リュウ達が連中の注意をひいています。
だから直接指揮を潰します。」
「手伝えとか言ってるのか?」
「指揮さえ潰せばあとは低脳な魔物だけです。
退く事も知らずに突っ込んでくるだけです。」
神父は少しの間考え込む。
(戯言だろうが。
・・・まあ、リュウたちの負担は軽くなる、か。)
「それ以前に、アリアハン騎士団を前に出せばいいんじゃないのか?」
「そうなったら向こうも総力を上げて手当たり次第に魔物を襲わせるでしょう。
それこそ被害は少ないものじゃなくなります。
リュウが一人で戦いに出た気持ちを踏み躙るおつもりで?」
「むう・・・。」
「とにかく準備が必要なら早くお願いします。」
「そうだな。メイス持って来るから待ってろ。」
そう言い残し神父は教会に走っていった。
(急げよ・・・。神父。)
ヴァイは神父の後姿を一瞥し、次いで東の空を見る。
(早くしないと、リュウに取られちまう。)
今回の敵の行動。
新勇者に対する事前調査。
アリアハンの民に対する心理的ダメージの与え方。

(あいつだ。)
「俺の獲物だ。」
ヴァイが狂気の混ざった哂いを浮かべた。


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