「では、ご褒美にまずこれをあげよう。」

空から愉快そうな声が掛けられると同時に、
レオナたちの輪の中心に物体が落ちてくる。
「・・・っ!」
(ぶつかる!?)
陽の光に重なっているため何かはわからないが、
人物大の物が遥か高みから落下してくるため
三人は急いでリュウの立つ場所まで走った。
そしてすぐに振り返り、落下する物体を確認する。
「・・・っ!?」
絶句した。
「ヴァイッ!?」
「神父様!?」
コトノとレオナが愕然とした。
神父と賢者が空から降ってきた。
(まずい!)
落下する二人に動く気配は見られない。
(あの高さから、無防備に、地面と衝突・・・!?)
明らかに致命傷、重傷を負うことになるのが予想できた。
その事に思い至ったリュウが走り出す。
(どうする?)
落下予想地点に着くまで充分余裕がある。
だが、それはそれほど高い場所から落とされたと言うこと。
リュウの腕力では、二人とも助けるのは不可能に近い。
(出来て一人。)
数瞬で苦悩する。
「起きて!」
ヒカルたちも神父たちが気絶していることに気付いたようだ。
大声を出して二人に呼びかける。
「くっ!」
反応はなかった。
(もう、恨まないでよ!)
コトノは一瞬逡巡し、だがすぐに決意し、魔力を練る。
落下速度を目で試算し、予想地点に指先を向ける。
「ギラ!」
コトノの指から高速で放たれた2つの細い熱線が
ヴァイの足を、神父の肩を貫く。
「起きろ!馬鹿野郎!」
喉が裂けんばかりに叫ばれたその声にヴァイが肩を震わせた。
(起きたか!?)
だがそれだけだった。
意識は戻ってない。
落下地点まで、神父たちが落ちるのも、リュウがそこに辿り着くまでも。
あと少し。
(どうする!?)
どう考えても両方助ける方法が見つからない。
「・・・む。」
苦悩するリュウの耳に、神父の呻き声が聞こえた。
「神父さん!?」
「・・・いてぇ・・・。」
聞き間違えでもない。
しっかり意識を持った声がリュウの鼓膜に届く。
「起きて!」
リュウの声に神父の頭が動く。
「うぉっ!?」
そして、空中で盛大に驚く。
(ああ、面白いリアクションだよ、まったく。)
両手を広げるその姿に、頭を抱えたくなる。
地面まで、本当にあと少しだった。
おそらく、リュウが着くのと地面に衝突する時間はほぼ同じなようだ。
「リュウか!?」
神父は猛スピードで駆け寄る姿を確認したのか、リュウに声を掛ける。
「はい!」
「ヴァイを!」
短く指示すると神父は悠然と地面を睨む。
(何すんだよ!?)
落ち着き払う神父の姿に果てしなく疑問を感じながら、
未だ動かないヴァイ目掛けて奔る。
そして二人の体が地面に触れようとする。
リュウが残り僅かな距離を一気に跳び、
ヴァイに横から突っ込む。
運動の方向を垂直から90度変える。
そして、抱えたまま地面を何度も転がることでエネルギーを失くす。
(そんな馬鹿な。)
リュウは自分の目を疑った。
ヴァイを横抱きに抱えて跳んだときに視界の端に見えた、
理解不能な光景に愕然とした。
神父が足から地面に衝突した。
リュウはその時点で目を覆いたくなった。
だが、そこから不思議なことが始まった。
神父の体は衝撃に負けたかのように次に膝から倒れこみ、
そして地面に体を捻じ曲げながら倒れていった。
そう見えた。
(死んだ。)
リュウは直感的に理解し、目を硬く瞑った。
そして、ヴァイと共に何度も地面を転がった。
そして立ち上がり、神父の姿を急ぎ確認した。
「・・・。」
神父は無言で自分の服についた汚れを払っていた。
無傷だった。
「無事か?」
リュウに気付いた神父が心配そうな声を掛けてきた。
リュウはコクコクと頷く。
擦り傷が全身に出来たが、ヴァイも自分も大きな怪我はしていない。
「うむ、良かった。」
「な・・・。」
「あん?」
「なんで、一切傷すら無い!?」
思わずリュウは叫ぶ。
そのリュウを見て神父は事も無い風に口を開く。
「5接地転回法って言ってな。」
神父の話によれば、身体をひねりながら倒れこむ事によって、
落下の衝撃を5ヶ所に分散させるこの方法で着地すれば、
たとえ王城の屋根から飛び降りたとしても、無傷で済むらしい。
「だから、無事。」
(そんな無茶苦茶な。)
「んなことより。」
神父が上空を睨む。
「気をつけろ。」
そこには赤いローブの男が同じく赤い鎧と共に浮かんでいた。
「なんですか。あれ。」
「化け物だ。」
拍手を叩き喝采しているその男を神父は忌々しげに見ていた。
「リュウくん!」
レオナたちが急ぎ駆けてくる。
「ヴァイさんを。」
コトノとレオナがヴァイを治療し始める。
「敵・・・ですよね?」
ヒカルから剣を受け取りながらリュウが尋ねる。
神父は視線を外すことなく答えた。
「今回の魔物どもの指揮者だ。」
リュウたちの顔色が変わるのを見て、ようやく赤いローブの男が降りてきた。


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