耳を劈く爆音に、そして頬に走る痛みにヴァイが目を開ける。
「起きた!?」
不思議とまた頬に痛みが走る。
ヴァイの視界には青褪めた顔のコトノが映った。
次の一撃に備えて振りかぶった姿のコトノが映った。
「・・・?」
「しゃきっとする!」
もう一撃頬に走る。
(平手打ちを乱打しないでよ。)
「起きたなら、あとは自分で回復できる!?」
「あ、ああ・・・。」
凄い剣幕で捲くし立てるコトノに腫れた頬を押さえて生返事を返す。
(何で慌ててる・・・?
何だ?この爆音は?)
「なら、早くして加勢に来なさいよ!」
コトノは慌てて立ち上がろうとする。
その腕をヴァイが捕まえる。
「なによ!?」
「何が起こっているんだ?」
「あの赤ローブやたらめったら強いのよ!」
(あれと戦っているのか・・・!?)
ヴァイが硬直したのを不審気に見つめる。
「・・・なによ?」
「・・・勝てる訳ない。」
「あん?」
「あいつは俺より遥かに強いんだぞ?
身の程知らずにも程がある。」
目の色を変えて話すヴァイをコトノが冷たく見る。
「あんたより、遥かに強い?」
「そうだ。」
「何で?」
「・・・さっきこてんぱんにやられた。」
コトノが鼻を鳴らす。
「一回負けたくらいで逃げ腰とは、見下げたものね。」
「・・・そんなレベルの話じゃないんだ。」
顔を背けるヴァイにコトノは目を丸くする。
(いつもなら怒るか、不敵に笑うんだけど・・・。)
「あいつには何も通じない。何をしても効かないんだ・・・。」
(・・・これは、相当ショック大きかったみたいね。)
唇を噛み締めるヴァイにコトノが嘆息する。
「・・・もう。
あんたの職業は?」
コトノが腕を組み、不遜にヴァイを見上げる。
「は?」
「ヴァイの職業は何って聞いてるの。」
「宰相で賢者・・・。」
「そしてあんたはあたしの師匠よね?」
「・・・ああ。」
「あんたはあたしに魔法以外に何を教えたの?」
「・・・。」
「力を求めたあたしに何を教えてくれたの?」
「・・・・・・。」
「んじゃ、あんたの賢者としての字名は何?
思い出しなさい。」
ヴァイがコトノの言葉に押し黙る。
「あのね、あたしはあんたが持てる全てを出し尽くして負けたとは思えないの。」
コトノが力強くヴァイに向かって言う。
「あんたが負けるとは思えないの。
聞くけど、知識の全てを使った?」
「・・・いや。」
怒りで頭に血が昇っていた。
「全ての力を出して戦えた?」
「いや。」
ただ、魔法をぶつけるだけだった。
(あの野郎の言葉に捕らえられていたか。
らしくないな、我ながら。)
「わかった?」
「そうだ・・・ね。」
ヴァイが自分の頬を両手で叩く。
「魔法使いの基本を忘れてたよ。」
「そうそう。
常に冷静であれ。」
「常に暴走しているコトノに言われるとは思わなんだ。」
「うっさい。
じゃあ行くわよ。」
「少し作戦立てる時間が欲しいんだけど。」
「そんなもん戦いながら考えなさい。」
ヴァイが、ぶつぶつ呟きながら前を走るコトノのあとに続いた。

***

「・・・やばいね。」
リュウが左手をぶらりと下げながら呟く。
(折れた。)
キラーアーマーの盾での一撃によるものだった。
気を抜いたリュウに向かってレオナが飛んでくる。
「くっ!」
上手く右手のみでレオナを抱きとめる。
衝撃で左手が激痛を訴える。
「ご・・・、ごめん・・・。」
「気に、するな。」
レオナも満身創痍でその場に座り込んだ。
「・・・大丈夫?」
隣で膝を着き、肩で息をするヒカルが聞いてくる。
「・・・逃げたいかな?」
「あはは、あたしも。」
見るとヒカルは致命傷こそ無いが、全身を血まみれにしていた。
「終わりか?」
横たわる神父の上に座り本を読んでいたアークマージが視線だけを向けて聞いた。
「思った以上につまらないな。
この椅子も座り心地が悪いし。
とても不機嫌だ。」
アークマージが神父の腹に踵を叩き込む。
「せっかくキラーアーマーのみに戦わせているのに。
もうちょっと根性を見せたまえ。」
「・・・うるせえよ。」
リュウが力弱く言葉を返した。
「減らず口が叩けるならばもう少し頑張れるな。」
アークマージが再び本を読み始める。
そしてキラーアーマーが迫ってくる。
「さて、どうするか。」
リュウがゆっくり進む鎧を見ながら仲間に聞く。
「どうするって言ってもね。」
ヒカルが力なく笑う。
「最強の攻撃力のジャム神父はのされているし。
リュウは左手骨折。あたし傷だらけ。レイちゃんは?」
「私は、疲労の極致かな。いつでも倒れられるよ?」
「自慢ごとじゃないよ。」
思わずリュウは苦笑する。
(だけど、本当に何とかしなきゃ。)
リュウがキラーアーマーを睨む。
(しかし、どこかで、あの剣捌き・・・。)
リュウは先ほどから何とか致命傷を避けられている理由を考える。
そして、ある考えが思い浮かぶ。
「・・・なあ、ヒカル?」
「うん?」
少しずつ後ろに下がりながらリュウはヒカルに小声で聞いた。
「・・・あの鎧、すっごい強いよな。」
「そんな事良く知ってるってば。」
「親方と比べて、どうだ?」
「お父さんと?」
少しの時間を置いてヒカルが唸りだした。
キラーアーマーは筆舌にし難いほど剣の腕が立った。
それこそゴロウと同じくらいに。
「・・・甲乙付けがたい・・・。」
「それだけか?」
「え?」
リュウの言葉にヒカルが聞き返した。
「親方の剣と似ていないか?」
「・・・。」
装備している鞘を、盾、そして蹴りや投げを多用する戦闘術。
「・・・どうかな?」
「・・・注意して見てなかったから、確証はないけど、概ね同意。」
「ならさ、試して来てくれないか?」
「・・・おっけ。」
リュウの左手ではキラーアーマー相手に戦闘するのは危険である。
回復が必要であった。
(そして、あたしならまだ十分動けるし、致命傷も食らわない。)
「・・・すまんな。」
「任せてよ。って良いたいけどね。
とりあえず死なないで戻ってくる。」
「頼む。
離れて見て確信が欲しいんだ。」
「・・・あとでご褒美くれる?」
「・・・何でもしてやる。」
「うし!」
ヒカルが元気に気合を入れる。
「行って来る!」
そして剣を構え、キラーアーマーに斬りかかった。
(現金な奴だね・・・。)
リュウがその様子に溜息を吐く。
「レオナ。」
「はぁっ、はぁ・・・ちょっと待って。」
レオナは荒い呼吸を整えるように深呼吸を繰り返している。
「・・・完璧に回復できないよ?」
「動けば良いさ。」
リュウが険しい顔で赤い鎧を見る。
「予想が正しければ、あいつは倒せる。」
ヒカルがキラーアーマの周囲を、円を描くように走る。
「予想って?」
「力で敵わなくても、速さで負けてても、動きさえ読めれば。」
「そんな、こんな短時間で見切れたの?」
「短時間じゃない事を、ヒカルに確認して貰ってるの。」
「よくわかんないけど。」
「とにかく回復頼むね。」


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