ヒカルが自ら作った隙に剣撃が放たれる。
その隙を見切っていたのか、剣を振り下ろしてすぐに、
左手に持った盾をヒカルに向かって投げる。
「うわっ!?」
剣をかわし攻撃に出ようとしていたヒカルが体勢を崩す。
かろうじて盾を交わしたヒカルの腹に、蹴りが走る。
かわし切れないと瞬時に悟ったヒカルは蹴りを剣の腹で受け止める。
「ぐっ!」
宙に浮いたヒカルの首をキラーアーマーが掴む。
***
「オッケー!」
レオナの回復魔法の光が消える。
「よし。」
リュウは左手をかくかくと動かし、確認するとヒカルの救援に走った。
(アリアハン最強の、いや世界でもほぼ最強の剣。)
ヒカルを片手で振り上げたキラーアーマーに向かい雄叫びをあげる。
リュウの接近に気付いたキラーアーマーがヒカルをリュウに向けて放る。
(予想通りだな、おい!)
「おかえり!」
リュウがヒカルを受け止める。
ヒカルが笑顔を向ける。
「間違いないね。」
「ああ、どういう理由かは知らんけど。」
「お父さんの剣術をコピーしてるね!」
「動きに応用が見れないのがありがたいよ。」
リュウが前傾姿勢になる。
「どっちが行く?」
「俺が行った時の方がやりやすかったよな?」
「そうだね。
ってあのまま行くの?」
「覚えてない?」
「鮮明に。」
「よろしい。
んじゃ俺が仕掛けるんでサポよろしゅ。」
「らーさー。」
ヒカルがリュウの後ろに立つ。
「行くぞ!」
リュウが全速力で走る。
(これから、俺は腹部に突きを放つ。)
剣を引く。
(親方は、剣の腹を上から踏み押さえた。)
踏み込み一気に突く。
突きながら鞘を腰から抜く。
(そして剣を押さえながら、落ち着いて剣を凪ぐ。)
予想通りに踏まれた剣を手放しながら、放たれた剣撃を鞘で受ける。
(そして、凪いだ剣を引き戻す反動で回し蹴りを頭に。)
キラーアーマーの攻撃で鞘を弾かれ、丸腰になったリュウに蹴撃が迫る。
(ここで。)
リュウは顔色一つ変えずに両手で攻撃を受ける。
(関節を極めようとすれば!)
重い蹴りの衝撃を後ろに流しながら、足に絡みつく。
キラーアーマーは意に介さず、その足をリュウごと振り下ろす。
「がはっ!」
地面に鎧の重量ごと叩きつけられたリュウが口から血を撒き散らす。
(そして、剣を頭に向かって振り下ろすはず!)
予想通りに。
予想通りに剣を振り上げる。
リュウは身動きが取れない。
が、何とか右手を振り上げる。
(最後の魔法!)
兜にメラをぶつける。
振り下ろされていた剣がそれる。
足の力が若干緩んだので、脱出する。
脱出した時に相手の足を引っ張る。
キラーアーマーはバランスを崩すが、後ろに倒れながらも剣を振る。
その剣撃が、半歩下がったリュウの服を切り裂く。
キラーアーマは剣の遠心力を利用して体勢を戻しながら
リュウに肩からの体当たりを仕掛ける。
(あと5手。)
リュウがその攻撃を横に跳んで避ける。
避ける事を予想されていたのか、伸ばされていた左手に捕えられる。
引き寄せられる力に自らの踏み足を乗せて、掌底を打つ。
「いってぇ!」
(鎧に拳打ってのもあほな話だよな。)
叫びながらもリュウは次の攻撃に備えて視線を走らせる。
僅かながら効果があったのか、自分の襟首を掴む手が緩んだ。
これをリュウは掴み返し、体を捻る。
(投げて。)
キラーアーマーが宙に舞う。
(何事もなかったように降りたところに。)
空中で腕を振り解き、華麗に着地する。
「ヒカルが突っ込む!」
両手で横から勢いよく振られたヒカルの剣をかろうじて剣で迎撃する。
(それに畳み掛けて!)
ヒカルの剣撃に両腕を塞がれたキラーアーマーに、
リュウは前宙をして浴びせ蹴りを放つ。
まともに当たるが効果は薄い。
リュウは鎧の両肩に足を踏ん張り、
右手で落ちている自分の剣を拾う。
ヒカルがキラーアーマーの足を切り払う。
宙に跳んで避けられる。
(空中に逃げた後、親方は。)
鞘をヒカルに投げつけたのを、リュウが居合抜きで瞬時に弾く。
「わあああああ!」
ヒカルが跳び、キラーアーマの剣を吹き飛ばす。
(親方はこれでようやく隙が出来た!)
ヒカルに続いて、リュウが跳ぶ。
「チェック!」
深紅の兜が宙に舞った。
****
「ごめん、遅れた!」
コトノが息を切らせてレオナに謝る。
「ヴァイさんは?」
「いるよ。」
ヴァイは息一つ乱さずにレオナに近付き回復魔法を掛ける。
「あ、ありがとうございます。」
「何、気にしないでー。」
飄々と言う。
(調子戻ったなー。)
コトノがそれを眺めながら、しみじみ頷く。
「リュウたちは?」
「・・・あっちで、赤鎧と。」
指を向けた方向ではリュウとヒカルが、
キラーアーマーの兜を弾き飛ばしていた。
「やった!」
レオナが拳を握り喜んだ。
そして、絶句した。
****
「な・・・!」
リュウが、ヒカルが剣を振った姿勢のまま硬直する。
少し離れた場所でレオナたちが言葉を失う。
「なんで・・・。」
ヴァイがふらつきながら歩み寄る。
まともに受け身を取る事が出来ずにリュウたちは地面に叩きつけられる。
(ありえない。)
彼は死んだ。
(俺のために。
あの時。)
それは4年前。
(皆を守って。
リナ姉ちゃんを守って。)
邪竜の顎に身を千切られながら。
(そして、ルイーダの酒場の裏に埋葬した。)
同じように地面に落ちた鎧がゆっくりと上半身を起こす。
ヴァイがいつの間にかリュウの横まで来ていた。
震える唇と青褪めた顔でその鎧の男を見る。
「・・・グエン。」
4年前、子供たちを守り邪竜を倒した友の名をヴァイが呟いた。
グエンと呼ばれた男は、額にリュウの剣の傷を大きく走らせ、
無表情にこちらを見ていた。
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