「おお、やるな。」
アークマージは硬直するリュウたちに拍手を贈る。
「こいつの頭を切るとは思わなかった。
これでは修復しなくてはならんな。」
「・・・お前。」
「ああ、こいつか。」
アークマージは立ち上がり不動の姿勢のままのグエンの胸を軽く叩く。
そして、手の平より発生した光球にグエンは包まれる。
「グエン!?」
「格納しただけだ。騒ぐな。」
ヴァイの叫びに鼻を鳴らした。
「懐かしい顔だったろ。
あの時、邪竜を倒されたのに感動してな。
甦らせた。」
「嘘だ!遺体は埋葬した!」
リュウが叫ぶ。
「掘り起こしたに決まっているだろう。」
「そんな跡なんて!
毎日俺は!」
「毎日手を合わせに来ていたな。
だがな、勇者よ。
お前が夜ルイーダと会っていた時間とは、
掘り起こして痕跡を隠すことが出来ないほど短いか?」
「なっ・・・!?」
「おおっと、口が滑った。
良かったな勇者。
これはお嬢さんたちに聞かせてはいけないことだろう?」
絶句するリュウを下卑た目で見る。
「そこの小娘にしか聞こえていなかったようだから。」
リュウを見るヒカルの脅えた瞳に、リュウは奥歯を噛み締める。
レオナとコトノはまだ後方にいて、
こちらに駆け寄ってきている最中であった。
「ああ、愉快だ。
そうそう、仇討ちの旅に出るそうだな。
知っているぞ?誰の仇を討つか、詳細に。
仇が誰か知っているかね?
親切心を出して私が教えてあげようか。
そして喜びたまえ。
その仇が結局誰かも知っているぞ?
そちらの方々にも聞いてもらおうかな?」
「リュウくん。」
後ろからレオナたちが走ってきた。
「さて、役者が揃ったか。」
「・・・お前、何処まで知っている?」
リュウが乾いた喉でアークマージに聞く。
その答えをヴァイが答える。
「・・・こいつは、あの日からずっと僕たちを監視してたそうだ。」
「そうだ。面白かったぞ?
人間の秘密というのは、滑稽だよな。」
アークマージがリュウを、コトノを、ヴァイを、ヒカルを順に指差す。
「それぞれに絶対に言えない秘密を隠したまま仲良く過ごす。
そうまで裏のある付き合いの人間に命を賭けられる。
実に滑稽だ。」
誰とも無く喉を鳴らす。
「顔色が変わったな。
ここで公表して進ぜようか?
たとえば、そこの魔法使い。」
「・・・?」
「何もかも知っているぞ?この3年の出来事。」
「・・・!」
「勇者に語ろうか?」
「や、やめて!」
コトノが飛び出そうとするのをリュウが押さえ込む。
「馬鹿!危ないって!・・・?」
コトノは歯を震わせ脅えた目でこちらを見ている。
「コトノ・・・?」
「ごめ、ごめんなさい・・・!」
脅える様にリュウの腕から逃れようとする。
「落ち着いて・・・!」
「それは無理だろう。なかなか愉快なことをしていたからな。」
リュウがアークマージを睨む。
「そういう勇者よ。
人のことは言えまい。
残る二人にばれてしまうぞ?」
「く・・・。」
「観察のし甲斐があったよ。
話が反れたな。
まず仇が誰かという話かな。」
アークマージはゆっくりと歩き出す。
「邪竜がやったのだから、直接的には仇はいないのかもしれないが。
お前の問題としているのは、その竜を誰が起こしたか、だな?」
「・・・そうだ。」
邪竜が目覚めてなければ、あそこに近付くことは無かった。
誰も怪我することも無かった。
「お前は記憶があやふやなのか、相手は誰か思い返せない。
だが確実にあの場に竜を起こした者がいた。」
「・・・そうだ。」
「この4年の視聴料として教えてやろう。
あれを起こすように命令を下したのは、お前の予想通りバラモスさまだ。」
(そうだ、だから俺はあいつを殺しに行く。)
「そう思い、修行に励んできたようだが。
だが、あれを見つけ、報告をし、起こしに来たのは。」
アークマージが朗らかに笑う。
「私だよ。」
リュウの視界が赤くなる。
怒りで頭痛までしてくる。
リュウはアークマージに向かい突進した。
迫るリュウにアークマージは笑顔を崩さない。
「貴様がぁっ!」
「リュウ!」
ヴァイが静かな声で暴れようとするリュウの肩を掴む。
「冷静になるんだ。」
「・・・無理です。」
「それでもだ。」
ヴァイの手に力が込められる。
「あいつは、あの日からずっと僕たちを監視していた。
だから、何もかもを知っている。
当然弱みを知っていて、それを有効に使ってくる。」
「当たり前だろ。何のために監視をしていたと思う?」
「挑発するためだろ?」
「違うな。
ただ面白かったからだ。」
リュウは、高笑いをするアークマージを睨む。
「さっきも同じ様に、挑発に乗っちゃってね。
情けないことに取り乱しちゃったよ。」
「ほう、今は落ち着いていると?」
「おかげ様で。」
「まだまだ、ネタはあるが?」
「何を言っても、もう無駄さ。」
ヴァイが一歩前に進む。
「少し下がって。そして固まっていて。」
リュウたちに言い、アークマージに近付く。
「お前の言う所の玩具に色々言われてね。」
「ほう、お前の公衆便所に何を言われたね?」
「無駄だよ。何を言われても今の僕は心を動かさない。」
ヴァイが不敵な笑顔を絶やさない。
「ほお、向かってくる気か?
先刻の戦いを忘れたわけではあるまい。」
「ああ、今度は冷静だ。
力の全てを出し尽くしてやるさ。」
「お前に何が出来るという?」
「知っているんだろ。
僕の字名を。」
ヴァイが緩やかに、だが複雑に指を動かす。
「最高の頭脳と魔力と魔技を誇り、
恐怖と栄誉を司る十四賢者が内の一人。