「だ、大丈夫?」
レオナがリュウの肩に手を置く。
「・・・ああ。」
無表情で返事をする。
その横でヒカルが俯いて肩を震わせている。
「ヒカルも、怪我とか?」
レオナの問いかけにヒカルは俯いたまま首を横に振る。
「・・・。」
「コトノは・・・?」
「・・・大丈夫よ。そんな事より下がんなきゃ。」
顔色が悪いままコトノは後方に歩みを進める。
(何なのよ・・・。)
アークマージの言葉が、リュウたちにとってそこまで衝撃だったのか。
(何か嫌だよ・・・。)
レオナが4人の間に広がった思い空気に溜息を吐く。
「ヒカル・・・。」
リュウが俯くヒカルの肩に触れる。
「ヴァイさんの言ったように下がらなきゃ。」
ヒカルは肩を震わせたが、暫く静止した。
少しの間、そうしていたヒカルが急に顔を上げてリュウの胸に拳を何度も叩きつける。
「・・・!
・・・っ!」
そして立ち尽くしているリュウの腹に顔を埋める。
「うぇ・・・う、ぐ・・・。」
「・・・ごめん。」
謝罪し、リュウはヒカルの頭を恐る恐る撫でる。
(何だってのよ・・・。)
コトノが二人の様子を、眉を寄せながら見ている背後で、
急激な魔力の高ぶりを感じた。
「ヴァイ?」
***
「ほお。」
アークマージが驚きの声を上げる。
「さすが『影』といったところか。」
「お褒めに預かり光栄だよ。」
「惜しげもなく禁呪使う辺り頭がおかしいとしか思えんよ。」
****
「禁呪って?」
レオナがコトノに聞く。
「さっきあたし魔法増幅したでしょ?アレ。」
「なんで『禁』なの?」
「うーんとね。」
コトノが言いにくそうに頬を掻く。
「なんてーか、失敗したら寿命がすっごい減るというかなんというか。
あと、時と場合によっちゃ世界が滅びかねない呪文があるとかないとか。」
「なに?」
ヒカルを宥めていたリュウが声を尖らせる。
「聞いてねえぞ?」
「言ってないもん。」
「じゃ、何?コト、危ない事してたの?」
レオナが目を丸くする。
「その言い方なんかやだなー・・・。」
***
「異界の魔王なり神なりと無理矢理チャンネルを開く呪法。
あまりの危険さ、強力さ凶悪さ故に歴史の陰に消え去ったと聞いていたがな。」
「その消えたものを何でお前は知ってるのさ?」
「魔族だからな。」
「変な理由だね。
考えてみなよ。
僕みたいな若い者が、そう簡単に賢者の称号受けれると思っているのかい?」
「なるほどな・・・。秘められた陰を継ぐ者か。」
「そゆこと。
先代を言い包めてね。
有事の際にその術を以て脅かす者を滅ぼすのが僕の役目なのだよ。」
ヴァイが光陣を宙に描く。
「そんな訳で滅んでね、脅かす者さん。」
光陣に手を当てて、魔力を集中させる。
「開け 天の聖櫃」
****
ヴァイの紡いだ言葉にコトノが体を硬直させる。
「・・・どうした?」
リュウがコトノの様子の変化に気付き尋ねる。
「皆くっついていたほうが良い。」
「・・・なんで?」
「天から魔力注ぎ込まれる呪法なんて、
ふざけてるくらいに凄いのしかないのよ。」
コトノがリュウの腕に自分の腕を絡めてしがみつく。
「だから、めちゃめちゃ凄まじい禁呪撃つ気よ。
だから吹き飛ばされないように、集まってようと。」
「へ、へえ。」
真剣なコトノの表情にリュウたちは苦笑する。
(そんな無茶苦茶なのか。)
「レイも、急いで。」
「え、あ。はい。」
慌ててレオナもコトノに倣う。
(ちゃんと、あたしたちいるってわかってるのよね。)
今一つ、釈然としていない三人を叱りながら、
コトノは自分の師に向かって不安な瞳を向けた。
***
「漆黒の天より堕ちて
光り輝く大地に昇れ」
「ほお・・・。」
アークマージの笑顔が消える。
「わかる、みたいだね?」
「どのような術かは知らないがな、威力は流石に想像できるさ。」
「かわせない事も理解出来てるかな?」
「お前の後ろの奴らも巻き添え食うって事も理解してるさ。」
「そいつは結構。」
ヴァイは儀式を続ける。
突き出された右手に魔力が集約していく。
「・・・正気か?」
その集約される魔力の量にアークマージが一歩下がる。
「僕の目的はお前を殺す事さ。
あの日、裏で画策してたお前の所為で色々恨み辛みが溜まっているんだ。
挙句の果てに友人の遺骸すら弄んでやがった。
お前を殺すためなら勇者だろうがなんだろうが知ったこっちゃないね。」
その声色から、集約される魔力から、それが偽りではないと容易に予想できた。
(こいつは、私を殺すためならなんだってする気か。)
「・・・やはり、狂ってるよ。」
アークマージが苦笑いする。
背中に大量の冷たい汗を認めて。
「最高の褒め言葉だよ、ありがとう。」
「昔輝き今澱みし 汝よ
古の契約を 行使せよ」
ヴァイの右手から幾筋もの光線が走る。
アークマージは魔力を集中させ結界を展開し、防御に集中し始めた。
その顔に余裕というものは殆ど無くなっていた。
(・・・なるほど。)
ヴァイが儀式を完成に近づけながら、アークマージを見る。
(冷静になって、いつも通りなら、
どんな敵でも翻弄し尽くせるんだねぇ、僕。)
唇の端を上げる。
アークマージが目に見えるほどの魔力の結界を作った。
(ばーか。)
笑顔で呪文を解き放つ。
「氷刻。」