「なにやってんだい?」
ヴァイが固まって衝撃に備えていたリュウたちに呆れた顔で寄ってきた。
「・・・あれ?」
コトノが顔を上げる。
「呪法は?」
「ありゃ、フェイクだよ。」
「ふぇいく・・・?」
「だって呪法無茶苦茶だったでしょ?」
「知りませんがな。」
「天の聖櫃から、なんで暁呼ぶのさ。」
「だから、そんな専門知識まだ無いですってば。」
「途中から閉じ込められし空間に連れ込む、って変わってたでしょ。」
「だからっ!知らないって言ってんでしょ!!」
ヴァイの呪法が威力の凄まじい術でなかった事に安堵させることなく、
畳み込んでくるヴァイの説明にコトノが怒鳴り声を上げた。
「じゃ、勉強してね。」
ヴァイはそう言いコトノに分厚い本を渡した。
「うわ、おも。」
コトノがその重さに踏鞴を踏む。
「きちんと、扱えるようになっててよ。」
「これって・・・?」
「禁呪リスト。僕の使えるの大体入ってるから。」
ヴァイは、手渡された重量物を見て固まるコトノから振り返り、
リュウに向き直る。
「・・・今どこから出した?」
「うふーふふ。」
「いや、もういいです。」
「それが良いよ。
さて、旅立ってもらうよ。」
ヴァイが笑いながら告げた言葉に、一同揃って疑問符を浮かべる。
「・・・こいつは?」
そして、固まるアークマージに視線を向ける。
「ああ、こいつは、今の僕じゃ殺れない。」
「え?」
「だって、現に停止させてるじゃ・・・。」
「こいつの周囲の時間を凍らせただけ。
すぐに解呪しちゃうさ。」
ヴァイが懐から、皮袋を出す。
「持ってって。」
「・・・金貨?」
「リュウはまだしも、他の三人仕度出来てないでしょ。」
「今すぐ行けって?」
「行くって、どこにですか?」
「本当は船用意してたんだけどね。
それだと、足取り簡単にばれちゃうから。
神父から鍵は貰った?」
「は、はい。あの物騒な鍵ですよね?」
「うん、そう。悪用しないようにね。
じゃあ、まず、急いでレーベに戻って、
ある人物から魔法の玉っての貰ってきて。」
「・・・。」
「ある人物ってお爺さんですか?」
「うん。」
「かなり呆けてますか?」
「そうだね。」
「じゃあ、リュウ、この前貰ったのじゃない?」
「あ、ああ。これ・・・、ですよね?」
リュウが背中のリュックから魔法の玉を取り出す。
「うん、それ。
なら話が早い。
今から飛ばすから。」
「どこに?」
「そこで封印解いて速やかに脱出するんだ。」
「えー・・・っと。
何言ってるかわかんねえぞ?」
「行けばわかるさ。
シェラに会ったらよろしく言っておいて。」
(誰だよ。)
全員の無言の言葉を軽く無視して、
ヴァイは停止している魔物に目を向ける。
「それじゃ。
僕が今からこいつを、最低で一年くらいは活動停止に追い込む。
だから、それに巻き込まれないように、見つからないように
早く行くんだ。」
「活動停止って?」
「肉体を吹っ飛ばす。」
「・・・普通死なない?」
「多分死なない。禁呪でもダメなんだ。
だから僕じゃ殺しきれない。」
ヴァイが視線をリュウに向ける。
「これから世界中を廻ると思う。
その間に強くなるんだ。
こいつを倒せるくらいに。」
「・・・なんで、こいつに拘るんです?」
リュウがヴァイに訊ねた。
ヴァイは禁呪の為の儀式の準備をしながら言った。
「4年前のあれ。
こいつは僕にとっても仇でね。」
リナが傷付き、グエンが死に、それぞれが傷を抱えた。
忌まわしい事件。
「どうしても、この手で殺したくて。
色々努力したけど、まだ足りないみたいだ。」
「なら皆でかかれば。」
「雑魚がでかい口叩くんじゃない。」
リュウを冷めた目で見る。
「僕でも倒せないんだ。
もっと、圧倒的な力が必要なんだ。」
ヴァイの言葉にリュウが剣を握り締める。
それを見てヴァイは視線を他の三人に向ける。
「だから、今は退け。
強くなってこいつを討て。」
ヴァイの視線の意味を理解し、
レオナたちはリュウを抱きかかえる。
「え、え?」
リュウは戸惑う。
「大丈夫、あたしたちも良く理解してないでこうしている。」
コトノが耳元で呟いた。
「リュウを頼んだよ。」
リュウの行動を封じる三人の少女にヴァイは笑う。
そして、手の平をこちらに向ける。
「それでは、勇者ご一行さま。
魔王退治の旅、どうぞ頑張って。
いってらっしゃい。」
(そして、多分さよなら。)
ヴァイが魔法力を高める。
そしてコトノに視線を合わせる。
「頑張ってな。」
そしてヴァイはバシルーラを唱えた。

****

「えーっと。」
「何処?」
目の前には小さな湖が広がっていた。
「あ、来た事ある。
誘いの洞窟だよ、ここ。」
「誘いの洞窟って、すぐ行き止まりじゃなかったっけ?」
「そうだよねぇ。
ここから何処に行けってんだろう、ヴァイさん。」
「どう思うコトちゃん?」
ヒカルがコトノに聞く。
だがコトノは唇に手を当て思考に耽っていた。
「コトちゃん?」
「え?あ、ごめん何?」
「どうしたの?」
「いや、ヴァイさま、様子変だったなあって。」
「そうなの?」
「そうなの。
普段から変だけど、今日はシリアスに変だったし。」
(何よりなんか嫌な予感すんのよねぇ。)
ポニーテールの先端を指に絡めながら考え込むコトノを
ヒカルとレオナは神妙な顔で見ている。
そして、その三人をリュウが半目で見ていた。
「えーっと。」
リュウが声に怒りを混ぜて、もう一度聞こえるように呟いた。
「なに?リュウくん。」
「いや、確かにヴァイさんの事は気にかかる。」
「うん。」
「話すのは一向に構わない。
ただ、降りてもらえないかな?」
リュウの上に絡みつくように三人は乗っていた。
「いやよ、疲れているんだし。」
コトノがリュウの胸に腰掛けながら尖った声をかける。
(いや、怒るの俺、怒るの俺が正しいから。)
「ほら、美少女と組んで解れて。」
「・・・。」
「怒らないでよ、もう。」
リュウの眉間の皺が深くなってきたのを見計らい、
三人は立ち上がった。
「ったく。」
苦笑しながら、同じく苦笑を返す少女たちに手を取られてリュウは立ち上がる。
(少し、良くなったな。)
4人を包む雰囲気がいつものそれに近くなったことに思わず安堵する。
「で、よ。」
コトノが洞窟に下りる階段を見る。
「下りても行き止まりなのよね。」
「とりあえず、入ってみますか。」
「へーい。」
リュウ、ヒカル、レオナ、コトノの順に階段を下りた。


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