鎧の駆動部分が合わさる音。
その音でリュウは目覚めた。
(・・・出口に。)
視線を扉に向ける。
(・・・敵か。)
自分の肩で眠るコトノを起こさぬようにゆっくりと動かす。
「・・・リュウ。」
遠くでレオナの膝を枕にしていたヒカルが起き上がる。
「おはよ。」
「うん、おっはよ。」
眠るレオナとコトノを起こさぬように静かに朝の挨拶を交わす。
「で、客だよ。」
ヒカルは扉に向けて構える。
「ったく、この朝っぱらから・・・。」
本日一つ目の溜息を吐き、同様に構える。
(さて、魔物なら・・・、ある意味ありがたいか。)
リュウは緊張のため無意識に唇を舐める。
アリアハンにはスライムと大ガラスが現れるのと同じように、
場所によってほとんど出現する魔物が決まっている。
(だから、このくそ寒い此処がどこかが分かる。)
口から白い息を漏らしながら剣を握り締める。
扉の向こうの気配が動いた。
「・・・数わかる?」
「わかんない。
でも昨日の魔物って程はいないね。」
「それは良かった。」
ドアのノブがゆっくりと、静かに音を立てないように回される。
呼吸は静かに二人の口から吐き出される。
意識が戦闘のために変化されていく。
(・・・来る!)
ノブが回りきって数瞬後。
ヒカルとリュウが走り出して。
扉が勢い良く開かれて。
一斉に雪崩れ込んできて。
大きな声が辺りに響いた。
「動くなぁっ!!」
「・・・へ?」
リュウとヒカルは部屋に突入してくる兵士に戸惑った。
剣を抜きかけた姿勢のまま停止する。
「ぶ、武器を捨てろっ!!」
震える声で自分たちを囲もうとする兵士たち。
「えーっと・・・。」
リュウは現状を今ひとつ理解できない。
理解できるのは、こいつらが何処ぞの国の兵士であることくらいだ。
ヒカルは、辺りを混乱気味に動き回る兵士を、ぼんやり見ている。
「お、お前ら、武器を捨てろと言っている!」
(ど、どうしよう。)
リュウは頭を掻きながら、対応に窮する。
(とりあえず、武器は渡せない。)
何かしてきたら反撃をする。
(否、彼女らに何かしたら、倒す。)
故に彼らの言うことは聞けない。
(よって、話し合いから始めよう。)
リュウは一人納得すると、自分に槍を向ける兵士に顔を向ける。
「ぶ、武器を・・・!」
「あ、あのですね。」
武器から手を離しながら、だがいつでも手に取れる距離で手の平を向ける。
「僕たちに争う気は・・・。」
兵士たちは警戒を解かない。
むしろ強めて、リュウたちを取り囲もうとする。
(ああ、めんどくせぇ・・・。)
こめかみに僅かに怒りが浮かぶが、我慢する。
そして、その僅かな怒りが大事なことを忘れさせる。
「ですから・・・。」
辛抱強く兵士の頭と思われる人物に説得を続ける。
「隊長!こちらは寝ているだけのようです!」
その言葉にリュウは固まる。
自分らを取り囲みながら、徐々に移動したのだろう。
眠る仲間に兵士が迫っていた。
(そうだ。この場にいるのは俺とヒカルだけじゃない。)
瞬時に顔が凝固する。
そして色だけが青褪める。
(・・・ ま
ず
い 。)
兵士たちに意識を改めて向ける。
リュウとヒカルを中心に囲んでいる集団が一つ。
レオナの眠る地点で彼女に備える兵士が三人。
「・・・リ、リュウ。」
ヒカルがリュウの袖を掴む。
(ヒカルも理解している。)
それは微かに脅えを含んだ声が物語っている。
(レオナに関してはそこまで問題は無い。)
何故なら彼女は極度の低血圧人間だからだ。
比較的大人しい。
てか、起きない。
(問題は・・・。)
「い、一刻も早く、兵を下げ――。」
「きゃああああああああぁぁぁぁって何あんた達っ!!?」
響くコトノの悲鳴。
リュウの言葉は途中でかき消された。
(お・・・そかった。)
リュウは頭を抱える。
コトノが自分を見下ろす兵に向かって、猛然と文句を怒鳴り始めた。
リュウはヒカルと目を合わせると、
こちらに槍やら剣やらを向けてくる兵など無視して、
レオナの寝るところまで走った。
そしてヒカルと共にレオナの上に伏せる。
(あの、高血圧娘――!)
リュウは頭を抱えて、
恐らく目を吊り上げて怒り狂っているであろう少女を想像して
違う意味で頭を抱える。
比較的素早く目を覚まし、
そのくせ、寝起きは不機嫌。
(起きた時に自分たち以外が不用意に近付けば・・・。)
今耳には長ったらしい詠唱が聞こえている。
コトノから弾け出る魔力と恐怖が兵を固定している。
(いや、ただぽかんとしているだけなのかも――。)
おそらく両方が正解だろう。
「覚悟なさい変質者ども・・・!」
コトノの手の平に光弾が生じて、ようやく隊長が動く。
「ま、待て!落ち着こう!我々は決して怪しいものでは―。」
「うっさい!この痴漢!リュウ!変態!」
(何故その3つの中に俺の名前があるのですか?我が友人よ。)
「聞けっ!いや聞いてください!」
兵士は必死にコトノに語りかける。
「あたしの前から・・・!」
コトノに聞く耳は装備されていない。
「我々はロマリ・・・!」
「消えて亡くなれー!!!」
(このあほたれがー!!)
増幅を終えたイオが、
おもしろいほどコミカルに兵士とリュウたちと祠を吹っ飛ばした。
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