「あ、小鍋も買っておこ。」
「鍋?邪魔じゃない?」
雑貨屋にて突如レオナの言った言葉にコトノが首を傾げる。
「そう?調理出来るだけでなくて、水とか掬えるからかなり便利だと思うんだけど。」
雪平鍋を回転させながらレオナが言う。
「うーん。確かに便利かもだけど・・・。誰が持つ?」
「リュウくん。」
鍋を担いだ勇者。
「・・・。良し買おう。」
しばしその姿を想像したコトノがレオナの案を承認した。
「お嬢さんたち、旅の準備かい?」
店主である老人がカウンターに肘を着きながら声をかけてきた。
「はい、ちょっと季節が悪いですけど。」
レオナが苦笑する。
「これから、もっと寒くなるからねぇ。」
煙管に火をつけながら店主は笑う。
「ねぇ、おじさん?
あたし達旅初めてなんだけど、何か注意しなきゃいけない事ってある?」
「まず、冬に旅に出るのは極力避けるってことかね。」
「それ以外で。」
「食料は十分に。
荷物は極力少なく。
邪魔なものは捨てる。
服装は温かく。
薬草、薬は多めに所持。」
そう言い、薬草の束を取り出した。
「セットで買えば、まけて上げよう。」
「えーっと、あ、ほら。私回復魔法使えるし。」
「お嬢さんがその場にいない時、もしくは回復魔法が使えない時、
どうしようねぇ。」
「むう・・・。」
財布の紐とにらめっこが開始された。
「いやいやいや、レイ。買っとこうって。」
「むー。でも、あっても使わなかったらもったいないし。」
「きっと、使う時あるし。」
「むー・・・。」
最後に一つ唸ると、渋々財布を開いた。
「まいどあり。
ところで何処に行くんだい?」
「それなのよねぇ。リーダー帰ってきてから決めようと思ってね。」
「どっちにしても、商隊に加わるか、乗り合い馬車かなんかの護衛付きので移動しないと危険だよ?」
「ここも物騒なの?」
「最近急に魔物が街道まで出てきやがるようになってね。
今のご時世、街の外歩くなら護衛が必要だよ。」
何なら紹介するよ、と店主が笑う。
「はっはっは、いや、おじさん。あたし達には必要ないよ。」
「そうかい?」
「こう見えても冒険者なんだから。」
自慢するかのように顎を上げるコトノを見る店主の目が変わる。
「お嬢さん方、冒険者なのかい?」
「ええ、一応。」
レオナが買った商品をまとめながら店主に答える。
「まさか盗賊退治に行くってんじゃないだろうね?」
「え、うーん。どうだろう?」
最終的な目的は魔王を倒すこと。
(それに重なるなら行くのかもしれないけど・・・。)
「おじさん、盗賊退治されるの嫌なの?」
レオナが考え込んでいる中、コトノが店主に笑いかけた。
「盗賊によるな。
カンダタ一味以外なら、ばっさばっさ切って欲しいね。」
「そのカンダタさんとこなら盗まれても良いわけ?」
「あいつらは俺らみたいな貧乏人は狙わんからな。
むしろ施しくれる。」
「へー。」
つまり、金持ちの家で盗みを働き、余剰分を民衆に与えているという。
「カンダタ一味はいわゆる義賊ってのだと。」
「そういうこったな。」
「でもさ。」
レオナが不思議な顔をして店主に尋ねる。
「施しって言っても、盗まれたお金じゃないんですか?」
「そこがカンダタは違うんだよ。
カンダタ一味は汚い手口で稼いでる奴らからしか盗みはしねぇんだよ。
だから罪悪感とかは感じないね。」
「だからって盗みは犯罪でしょ。
汚れたお金もらっても・・・。」
店主が笑う。
「お嬢ちゃん、いいひとだね。」
煙管を深く吸い、そして煙を吐く。
「まあ、金貰えるのは嬉しいからね。
それに盗むのは、だいたい大臣とかの偉い人達からだからねえ。」
「・・・?
何か関係あるの?」
「この国の人間は、お偉方が大っきらいなのさ。
国王様はとても良いお方なんだけど、
お大臣さんは賄賂ばっかだったり、威張り散らすくせに何もしやがらないんでね。」
「へー。アリアハンの大臣とかは常に忙しそうだけどね。」
コトノが目を丸くする。
「そうなの?」
「いや、原因を作ってるのが、殆どあたしの上司なんだけど。」
ヴァイが時たま起こす無茶に、大臣は処理に常に追われている。
「ま。
何にせよ、この国の人間は大臣らが嫌いで、
その大臣を懲らしめるカンダタが気に入ってるって訳だ。」
そう言って、店主は何か思い出したのか、急に笑い出す。
「どうしたの?」
「いや、聞いてくれよ。
この前の話なんだがね。」

***

「金の冠が、そのカンダタに盗まれたと。」
「う、うん。」
顔を真っ赤にしたシェラがリュウに答える。
「で、でね?
一応さっき君達来る前に決まってたんだけど。
祠の損壊、および兵士への傷害を見逃す代わりに
それを取り返して来いって。」
毛布で顔を半分隠しながら上目使いにこちらを見る。
「さっきの魔法使いの娘が言ってた事、会議で私も言ってたんだけど。
押し切られちゃって。」
私立場弱くてさ、とシェラは弱く笑った。
「いや、こっちも悪い事したし。
てか、庇ってくれてたんだ、ありがとう。」
リュウがシェラの横に座り頭を撫でる。
「う、や、無理に取ってこなくても良いよ?」
「国際問題になり兼ねないし。
それにシェラさんも立場悪くなるんじゃ?」
シェラは手と首を大げさに振る。
「いやいやいやいや、そんな私の事なんて気にしないでいいよ。
立場どっちかって言ったら既に悪いし。」
「・・・十四賢者なのに?」
「十四賢者だからだよ。
若いくせに、国政に携われる資格持ってるのが気に入らないみたいで。」
「・・・そんなんおかしい。」
リュウが険しい顔をする。
「だって、シェラさん凄い能力あるのに。
多分国政にも役立つ能力持ってるのに。」
握り締められた拳に手が置かれる。
「気にしないでいいって。」
「でも。」
「国王様とか分かってくれてる人は分かってくれてるし。
ヴァイも私の有能性は分かってるから乱用するんだし。」
リュウは憮然とした表情で黙る。
「ところでさ、その。」
シェラが先ほどのように顔を隠す。
「もう結構な時間だけど・・・。」
窓の外に星が覗き始めて数時間が経過している。
「あ、まずい。」
リュウが慌てて身支度を始める。
「ごめん、長いこと居座っちゃって。」
「ううん、それは良いんだけど。
もうすぐ日付変わるし、折角だから・・・。」
「ええっ!?日付変わる時間!?」
リュウが慌てて剣を腰に挿す。
「?」
「あいつらにどんな目に遭わされるか・・・!」
青褪めながらマントを装着する。
「よし!」
宣言と共に拳を握り、支度を済ませた。
「んじゃ、金の冠については頑張ってみる。」
「うん。でも無理はしないで。
カンダタ結構強いらしいから。」
「シェラさんが言うなら、本当に強いんだろうなぁ・・・。」
リュウが項垂れる。
「ま、なんとかしまさあ。」
そして頭を上げて笑顔を見せる。
「道中、気を付けてね。」
「うん。」
リュウが挨拶と共に部屋のドアを開ける。
「何か困ったことあったら、いつでも来てね?」
「うーん・・・。」
リュウは立ち止まり、考え込む。
「・・・何かなくちゃ来ちゃダメ?」
「・・・いや!いつでも歓迎!」
慌てるシェラに微笑を返す。
「んじゃ、また。
あ、あとヴァイさんの現状調べてくれてありがと。」
リュウは手を振り部屋から出て行った。
手を振り返しながら見送ったシェラは暫くたってから、
そのままベッドに背中を下ろした。
「・・・いやはや。」
頬を押さえながら呟く。
「・・・オルテガの噂、息子も引き継いでるのかしら・・・。」
そして枕に顔を埋める。
(いやはや、これはまずいわね。)
思わず緩みそうになる頬を必死に押さえながらシェラは眠りについた。



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